・TR-55に続いて昭和30年の暮れに発売されたTR-72です。23900円でした。TR-55に比べて外観は大きかったものの、桜の木を使ったキャビネットと、大きなチューニングダイヤルで選局がしやすく、評判が良かったそうです。かなり長い間生産されたようで、シリアル番号30000を境に前期と後期で基板構成が大きく変更されています。これら2種類のTR-72を手に入れることが出来ましたので、その違いを写真とともに説明します。
TR-72 appeared in late 1955 with the list price 23900yen. A well-constructed wooden cabinet radio reproduced good sound and manufactured for several years. There was a change in circuit design at the serial No. 30000 and after. I've got an early one and later one. The early one has a serial No.3505 and the later, No.28478. It's strange that a younger serial No. than No.30000 has a later cirduit design. Someone might have changed the speaker with serial No..


・前期の内部写真です。出力トランスがシャーシー上にマウントされています。この写真ではわかりづらいですが、後に修理のために分解したときの写真がありますのであわせてご覧ください。
The inside picture of early TR-72. Output transformer is mounted on the base chassis made of aluminum. The interstage transformer is smaller than the later's.


・後期の内部写真です。出力トランスが基板上にマウントされています。
The later's picture. Output transformer is on the AF circuit board reducing the manufacturing cost.


・前期TR-72のシャーシーを取り出したところです。2本束ねられたバーアンテナが目を引きます。前期と後期ではプリント基板上の部品配置がまったく異なります。また、回路も部分的に変更されています。右側の基板がRFブロック基板で、RF、IF、および検波回路までを含んでいます。左側の基板が低周波増幅ブロック(AF基板)で、ボリュームコントロールからのオーディオ信号を増幅しています。
The taken out chassis of early TR-72 from the wooden cabinet. Two ferrite bars are bundled to form a bar antenna. AF board, RF board and an output transformer are mounted on the aluminum chassis.


・後期のシャーシーです。バーアンテナのコアが1本になっています。
This is the later one. It looks more sophisticated.


・シャーシを取り出した後のケースです。大変凝ったつくりをしています。
The wooden cabinet.


・ラジオに同梱されていた取り扱い説明書です。この時代はまだ社名が東京通信工業となっています。
The cover of early TR-72 owner's manual. At this point Sony logo is on the page but the company name is still Tokyo Tsushin Kogyo.


・取扱説明書の中のグラフです。このグラフは、TR-72が大変経済的であることを示すグラフです。当時、先行して市場に出ている電池管式のポータブルラジオや家庭用真空管式ラジオにくらべ、電池代・電気代が安くつくので、長い目で見れば経済的というわけです。一番左がTR-72、隣がTR-55です。確かにTR-72の消費電力は小さいです。音量を抑えて聞いているときの消費電流は10mA以下です。単1乾電池3個で、電池を休ませながら使用すると1000時間は持つと謳っています。
This is a chart of power consumptions on the owner's manual above comparing TR-72 with TR-55, 5-tube super heterodyne, portable tube radios. It shows how economical TR-72 is. The manual says three D-size cells enables 1000 hours listening with intermittent use. Actually I measured the operating current and it was less than 10 ma when small sound.


・ TR-72はソニー製品が海外に輸出された記念すべき第1号モデルでもあります。最初の輸出先はカナダで、ここに刻印されているGENDISというのはカナダの商社(T. Eaton Co.)が扱っている商品につけていたブランド名:General Distributors とソニーを一体化させて作ったブランド名でEatonが扱うソニー商品に付けていました。左側のチューニングダイアルは国内用のもの。右側はカナダに輸出するラジオにつけていたダイアルです。


・前期TR-72の調子が良くないので修理することにしました。症状としては、音がひずむのと、選局しづらいの2点です。ケミコンの容量抜けおよび、絶縁度低下が原因と思われますがチェックするために取り出したAF基板です。
My early TR-72 sounds distorted therefore I checked components and replaced some electrolytics. This is the closeup of AF board.


・結局ケミコンを4個交換しました。本来なら不良のケミコンを取り外し、表側から新たなものをマウントするのですが、オリジナルの部品は残しておきたかったため、リード線を基板から浮かせた状態で固定し、新たなコンデンサは目立たぬよう、基板の裏側に付ける事にしました。Usually I pull out a bad component and put a new one on the same place, but this time I didn't want to lose original view. So I stuck electrolytics on the pattern side of the board, floating the leads of bad electrolytics.



・AGCがうまく効かなかった原因はケミコンの漏れ電流のせいでした。また、バイパスコンデンサの容量が抜けているため、チップコンデンサを追加しました。小さく、また、薄型ですがこれでも100uF/6Vです。
This is what i did on the RF board. Added 2 caps on the power line.


・修理し終わったシャーシです。筐体に組み込めば完成です。このラジオはビスが多いですが修理はしやすいです。
The repaired Tr-72 chassis. All you have to do is put back into the wooden cabinet.


以降は前期と後期のTR-72が回路的にどのように異なっているかを回路図・パタン図を用いて説明しています。
For those who are interested in technical matter, circuit diagrams and patterns of printed wire board is prepared.

・前期の回路図とパタン図を載せました。後期のものと比較してご覧ください。実際の基板は高周波〜検波までのRF基板と低周波増幅のAF基板に分かれていますが回路図では一つになっており、少し見づらいです。また、ケミコンの極性やパタンの接続箇所が回路図とパタン図で合っていないところが何箇所かあります。
This is the circuit diagram of early TR-72.


・こちらは前期TR-72のパタン図です。AF基板(右側の基板)は出力トランスが基板上にマウントされていない分、後期のものと比べ基板が小さくなっています。左側のRF基板の周囲を取り巻いているグランドパタンの電位は0Vではなく、抵抗R6とR7で電源電圧を分圧した電圧で約1V あります。この電位がシャーシーの電位になるため、修理時に乾電池のマイナス側がシャーシーにタッチしないように注意します。
Patterns of early TR-72.


・後期の回路図です。前期のものに比べ見やすくなっています。AF部分は回路的には変更はありませんがドライブトランスと出力トランスはともに変更になっています。RFブロックはAGCのかけ方に大きな違いがあります。後期のほうがAGCの応答が速く、選局しやすいように思います。
This is the later one's. AGC circuit is greatly different.


・こちらは後期のパタン図です。AF基板に出力トランスがマウントされるようになり、組み立て工数が大幅に削減されました。RF基板の周囲を取り巻いているパタンの電位は0Vになっています。AF基板の周囲のパタンの電位も0Vで、ともにシャーシーに落ちるようになりました。前期のものに比べ、動作が安定すると思います。前期のAF基板は周囲を取り巻いているパタンは独立しており、シャーシーには落ちるがAFブロックのどの回路とも接続されていません。
Pattern of later TR-72.


TR-72 in case. Looks good.


In this CASE, you must open the top to control the radio.


One of the accessories of TR-72: external wire antenna and winding frame. SONY logo is on the frame.
付属している外部アンテナケーブルとその巻き枠です。プラスチックで出来た巻き枠にもソニーのロゴと東京通信工業の名前がプリントされています。


Another accessory is this well-designed earphone. With the strong magnet inside the earphone, large actuator reproduces good sound.
同じく付属していたイヤフォン:ME-1です。50年以上も前にすでにこのようにうまく考えられたイヤフォンが存在していたのです。イヤフォンのツルは取り外しができ、付け替えることにより左右どちらの耳にも掛けられるようになっています。また、イヤーパッドは先端が短いものと長いもの2種類が用意されており、通常聞くときには短いほうを用い、耳に圧迫感をあたえることなく聴取でき、周りの騒音が大きいときには長いほうを用い、耳の奥まで差し込むことにより、外来ノイズを抑えて聴取できます。


Earphone comparison.
イヤフォンの大きさ比較です。右側が通常のソニーのイヤフォンです。


Manual of the earphne.
ME-1の取説です。


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