ST-5000Fの修理(2013.08.30追加)
・友人からST-5000Fの修理を頼まれました。チューナーの修理は今までほとんど手がけたことが無かったのですが、ST-5000Fといえばソニーの最高級のモデル、一度は手にしてみたいと思っていた機種だったので修理を引き受けることにしました。購入当時の箱に入れ、自宅まで運んできました。


・箱から取り出したところです。セットが箱から取り出しやすいようにうまく工夫されています。両側の穴の開いたところに指を入れて持ち上げる構造です。いまどきのセットには見かけない工夫だと思います。


・セット本体を後ろ側からみたところです。天板にたくさんの穴が開いていますが、これは当時発売していたアンプと共用していたからでしょう。このチューナー専用であればこれほどたくさんの穴を開ける必要はありません。機銘板に記されていたシリアル番号は201437なのでかなり後半のものだと思います。


・底の写真です。天板と同じようにたくさんの穴が開いています。


・通電してみました。ダイアルスケールを照らす左右のランプのうち右側のランプが切れているようです。また、メーターのバックライトも切れているようです。まずはこれらの修理です。


・天板をはずしたところです。内部を見られることを意識したつくりになっています。各ブロックごとにカバーをかけていたり、2個のメーターがいかにも産業用の計器に使用される高級メーターを使用しているのではないかと一瞬思わせるような演出をしています。


・底板をはずしたところです。こちら側は特にカバーをしていません。左側の基板はMPX(マルチプレクサ)およびライン出力アンプが搭載されている基板です。右側の基板は電源基板です。


・ランプ交換のためにフロントパネルをはずしたところです。押出し成形の分厚いアルミパネルを加工しています。このアルミパネルはアンプやチューナーにも使用され当時のソニーコンポ製品の顔になっていました。この機種に限りませんが、当時のものは他社製品も含め贅沢なつくりをしていました。現在のコストダウンを最優先にした造りとは比べ物になりません。


・切れているランプです。ヒューズ型のランプを使用しています。今では手に入らないためムギ球をヒューズの筒の中に入れて代用しました。


・メーターのバックライト用のムギ球です。切れていたと思ったのは間違いで、実はメーターを緑色に照明するために塗布されていたインクが経年変化と熱で黒くなり、光が透過しなくなっていたためでした。ランプのフードの下半分が黒く(本来は緑色もしくは青色だったと思われる)塗られています。この塗料を落とし、緑色のフィルターを入れました。


・これで外観的にはまともになったので、後は修理です。あらかじめ友人から右チャンネルの音が出ないということを聞いていたので、どこで出なくなっているのかを探ることにしました。


・信号をあたってゆくと、復調した後の16kHzのLPFの出力に信号が出ていないようです。入力までは信号がきています。矢印で示す大きな黒い箱が16kHzのLPFブロックです。LとCで構成されていますが、何しろ扱う周波数が低い(音声帯域)のでコイルが大きくなってしまい、このような大きな箱になってしまったようです。


・左側には信号成分とDC成分が出ていますが、右側にはDC成分も含め、まったく信号が現れません。


・フィルターをはずし、テスターで端子を当たったところ、入出力間で直流抵抗が∞になっています。これは回路のどこかで断線しているということになります。仕方が無いのでLPFブロックを分解することにしました。シリコンゴムのようなものが充填されているので慎重に取り除いてゆきます。結局、矢印で示すコイルが断線していることがわかりました。


・つぼ型のコイルで、Lチャンネルのコイルをはずして測定したところ約24mHありました。


・適当なコアを探し出し、0.08mmのポリウレタン線を700回巻き、それでもインダクタンスが足りないのでコアの上に別のフェライトを貼り付け、Lチャンネルとほぼ同じ値にしました。DC抵抗もほぼ同じになりました。分解するときに被覆が破損したので隣の1000pFのコンデンサも変更しました。


・修理したフィルターブロックをMPX基板に載せました。ついでに基板についていたケミコンをすべて交換しました。


・これでステレオ放送も受信できるようになりました。が、実際放送を受信してみるとメーターの振れかたやダイアル指針の位置が少しずれているようです。左の写真は信号発生器から77.5MHz、30dBuの信号を加えて受信しているところです。インプットメーターが最大に振れるところでチューニングメーターはセンターになりません。また、ダイアル指針も77.5MHzから少しずれています。


・まず、IFブロックの特性を調べるためにIFブロックの入力にスイープ信号をいれ、IF出力の波形を観察したのが左上の写真です。この写真を見てみると、どうもIFフィルターのセンターがすれているようです。本来ならば10.7MHzがセンターであるはずなのに高いほうにずれています。センター周波数は10.77あるいは10.78MHzあたりでしょうか。一般的なラジオやチューナーはIFT(中間周波数トランス)を用いてIF帯の信号を弁別・増幅しており、センター周波数がずれた場合にはこのIFTの共振周波数を再調整すればよいのですが、ST-5000Fの場合にはセラミックフィルターという調整できないフィルターを用いています。フィルターの中心周波数(特性)がずれない場合には問題ないのですが、今回のように経年変化でずれてしまった場合には調整のしようがありません。したがって、IF帯の中心周波数は10.7MHzではなく、10.78MHz前後であるという前提に立った調整が必要になります。左下の写真は検波出力波形です。これもやはり10.78MHzあたりを中心にスロープを描いています。本来ならこのスロープは直線にならなければいけないのですが、信号発生器のスイープ速度が高いほうで若干速くくなっているのでスロープが少し湾曲して見えています。

調整を済ませ、気分よく放送を聴いていたら、ガサゴソというノイズが、、、


・調整も済ませて久しぶりにゆっくりとFM放送を聞いていたところ、左チャンネルからガサゴソという音が出始めました。非常に不規則なパルス性のノイズです。オシロでノイズ源をあたってゆくと、どうもLPFを出た後のトランジスタから出ているようです。写真はトランジスタのコレクタ波形(黄色が左チャンネル、青色が右チャンネルです)。トランジスタを交換することにしました。


・取り外したトランジスタです。左右のバランスをとるために右チャンネルのトランジスタも交換しました。足の部分が真っ黒になっています。交換後はノイズも無くなり、快適に受信できるようになりました。

せっかくなのでS/Nとチャンネルセパレーションを測定してみました。
アンテナ入力レベルが30dB時の1KHzステレオ信号入力時、チャンネルセパレーションは約39dB、S/Nはモノラル時で約70dBでした。S/Nは入力レベルを上げてゆくにつれて更に良い値になりますがチャンネルセパレーションはあまり変化しませんでした。

以下2013年08月30日追加
以前修理した5000Fですが、ノイズが出るようになったとのことで再度修理することになりました。

・さっそく現状確認です。左右の出力端子にオシロをつないでノイズ波形を観測しました。確かに左チャンネルから不定期にノイズが出ています。前回と同様、トランジスタからのノイズのようです。


・信号を当たってゆくとLPF前段のアンプに使われているトランジスタがノイズを出していることがわかりました。


・取り外したトランジスタです。左右のバランスが取れるように右チャンネルのトランジスタも取り外しました。


・トランジスタを交換したところです。これでノイズの発生はなくなりました。また、当分の間使用できると思います。


・ダイアルスケールを左右から照らすパイロットランプが切れていました。チューナーの電源が入っている間は常時点灯しているため、毎日朝から晩まで使用していると数年で切れると思いますのでLEDに交換することにしました。


・ヒューズの筒にLEDと電流制限用の抵抗を埋め込みました。

参考のために回路図を載せておきます。


メールはjnkei@yahoo.co.jpへ

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