HERMES:並4受信機(102型)の修復のページです

1.入手時の様子
・オークションで購入したヘルメスの並4受信機:102型です。立体的な外観です。ベニヤ合板を精巧に切り抜いたスピーカーグリルが印象的です。右側の一部が欠損しており、修復する必要ありです。

・後ろから見たところです。球の構成は初段が27A、次段が26B、ファイナルが12A、整流は12F(ソケットには12Bと刻印あり)です。後ろからは見えませんが、電源トランスの向こう側に低周波チョークがあります(断線していた)。

・箱から取り出してみました。スピーカはしゃーしーに取り付けられており、木箱にはネジ止めされていません。ネジ止めの跡も無いことから、元々このような作りなのでしょう。修理するには便利です。バリコンの軸に大きなプーリーが付いており、ダイヤルスケールの上を指針が動く仕組みになっています。

・ダイヤルスケールの拡大写真です。

・プーリー周辺の拡大です。

・マグネチックスピーカーの磁石の横に鏡がついています。セット後方からこの鏡を見ると、コイルの真中のアマチュア(鉄片)が映ります。隣のネジをまわして、アマチュアが丁度センターに来るように調節するためのものだったのです。

・シャーシー内部の写真です。ずいぶんといじられています。段間トランスを1個取り去った跡があり、残っている1個も1次側が断線しています。段間トランスの代わりにCR結合となっていました。また、低周波チョークの代わりに2kオームの抵抗がついています。さて、これから、できるだけオリジナルに近い形でレストアしてゆこうと思います。

2.スピーカーグリルの修復
・先ずはスピーカーグリルの修復です。写真のようにグリルの右側の格子が欠けております。本来なら合板を切り抜いて作るところですが、今回は少し横着をし、エポキシ樹脂で作る事にしました。

・左側の欠けていない格子の型をとり、エポキシ樹脂を流し込んで作ります。左側の白いものが「型取りくん」を用いて採取した型です。右側は、これにエポキシを流し込んで作った格子です。

・欠損部分にはめ込んだ所です。色が合わないため、着色する必要があります。

・塗装を施しました。少し色が異なりますが、遠目では余り気にならないのでこれで良しとします。時間があるときにまた塗りなおします。


3.シャーシー修復のための部品取り
・入手時にシャーシー上に付いていた部品を取り外しました。チョークコイルは断線、段間トランスも1次側が断線していました。1次側が断線しているトランスは多いです。幾つかのコンデンサは交換されており、電気的にはまだ使えそうですが、年代的に新しいので、今回のレストアには不向きです。右端のブロックコンデンサはペーパーコンデンサです。表示は6uFとなっており、端子が4本出ているところから、2uF、2uF,1uF,1uFです。このコンデンサの漏れ電流は300Vを印加したとき、3μA以下でしたので、このまま使う事にします。

4.トランス類の修復
・取り外したチョークと段間トランスです。本来はもう1つ段間トランスが付いていたはずなのですが取り外されていてありません。何処かで見つけてくる必要ありです。できるだけ当時の形に仕上げるというのが趣旨なので、コイルを巻きなおす事にします。

・トランスを分解した所です。トランスとチョークコイルは同一形状のコアを使用していました。

・巻きなおして完成した段間トランスとチョークコイルです。チョークコイルは0.1mm径のポリウレタン線を1万回程度巻きました。インダクタンスは約88ヘンリー、DCRは約2.8kΩでした。これだけインダクタンス値があれば平滑コンデンサの容量が2uFでも何とかなるのでしょうか。段間トランスの方は1次側を3200回、2次側を10000回巻きました。それぞれのDCRは0.68kΩと3kΩになりました。

5.ペーパーコンの偽装
・唯一1個使用されていたペーパーチューブラコンデンサはあいにく絶縁度が低下しておりそのままでは使用できません。外装にヘルメスのロゴが印刷されているため、この紙をはずし、新しいフィルムコンに巻きつけることにします。左側がはずしたペーパーコン、0.1uFです。右側はASCのフィルムコン0.47uF/400Vです。容量は少し異なりますが、電源のデカップリング用ですので問題ありません。

・外側のペーパを剥がしたところです。

・新しいフィルムコンデンサに巻きつけました(右側の写真)。コンデンサの太さが少し異なりますが、昔のペーパーコンの雰囲気は出ていると思います。


6.部品の実装
・2個の段間トランスその他の部品を取り付けたところです。入手時に段間トランスが1個無くなっていましたので、以前に巻きなおしたものを使用する事にしました。シャーシー中央上部にパディングコンデンサが見えますが、これはどのように接続されていたのでしょうか。

・部品の取り付け、配線も終了し、完成したシャーシー内部の写真です。

・元々ついていた線材で使用可能なものはそのまま使用しました。経年変化で硬くなっていたエンパイア・チューブもブロアーで暖めて柔らかくし、太目の銅線を通して使用しました。

・部品の取り付けが終わり、シャーシーを上部から見たところです。左下に見えるチョークコイルも今回巻きなおしたものです。

7.完成
・レストア完了です。少し部屋を薄暗くして写真をとりました。バックライトによりダイアルスケールが浮かび上がっているのがごらんいただけますか。

・斜めから見たところです。側板や天板に少しひびがはいていますが、正面からは見えないため、今回、修繕は見送りました。

・修復後の回路図です。オリジナルの回路図がないため、正確な所はわかりませんが、それほど大きくかけ離れていないと思います。このラジオは再生バリコンと再生コイルとの間にバディングコンデンサがシリーズに挿入されており、再生のかかり具合を調節できます。部品点数が少なく、大変すっきりした回路です。さて、性能はどの程度でしょうか、測定してみました。アンテナ端子にSGから1kHz、30%変調のAM波を入力し、スピーカー端子にどれほどの振幅が現れるか見てみました。再生バリコンを調節し、発振手前で止めた時のゲインは、入力電圧=50dB(0dBu=1uV)の時に30Vppでした。ゲインは実測で約90dBです。

各ステージのゲインがどうなっているか測定してみました。SSGから1kHz30%変調の1000kHz変調波を出力し、アンテナ端子(AS)に接続しました。再生がかかっているため、アンテナ入力から2段目(26B)の入力までで800倍のゲインがあることになります。26Bや12Aではあまりゲインがかせげていませんがこんなものなのでしょうか。
私の家(川崎市)では、2階から1階のほうへたらしたアンテナとアース(わりといい加減なアースです)をつけると関東の局は全て受信できました。音質はというと、音楽を聴くには全く適しません。AFN(昔のFEN)の低音がたっぷりと入った局では音がひずみます。ただし、人の声がメインの放送、例えはNHKのラジオ深夜便を聞くにはなかなかよろしい。このラジオの整流直後の平滑回路は2uF+チョークコイル+2uFという構成のため、かなりのハム音が出るのではと予想しましたが、スピーカーに耳を近づけても殆どハム音はきこえません。マグネチックSPのため、低域が出ないせいでしょうか。チョークを出たところのリップルは約2Vppでした。